観光地のビジネスはここ30年で大きく変わった(もっと前からか……)。どのように価値を生み出し、収益を上げるかというビジネスモデルそのものが変わったのである。過去のビジネスモデルで強みを発揮していた地域、熱海などは、新しいビジネスモデルの波に乗り遅れた。過去の成功体験が強烈であればあるほど、転換が難しいのである。
その熱海が、活気を取り戻している。僕自身も何度か熱海に行き、それを実感している。
過去のビジネスモデルは、こんな感じだった。
企業の慰安旅行など団体客を相手にしたもの。その行程といえば、熱海に到着すればそのまま旅館に運ばれ入浴、食事・宴会などで過ごし、なかには夜に街を散策して娯楽施設を利用するものもあるが、一晩過ごして朝食をとって帰路にというパターンだ。
それがすっかり変わってしまった。今の観光客は、旅館で一日過ごすなんてことはしない。着地型観光と言われる、その地域ならではの体験を求めている。そこで著者は、熱海ならではの地域資源の掘り起こしを行った。
88歳の名物マスターがいる路地裏の喫茶店、90代のお母さんがやっているジャズ喫茶などが注目されるようになり、数々のメディアで紹介もされている。また、かつて遊郭だった建物があるなど、長くブームが続いている「昭和」を楽しめる街並みは、実は格好の観光アトラクションであることが地元で再認識されるようになった。
そこでは、古くなった建物がむしろ資源となった。新しい「意味」の創出である。ビジネスモデル転換にはこうした意味創造のプロセスを経ることになる。