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リーダーを育成する グローバルな人材要件の変化と対応|教育イノベーションイニシアティブ

2018年9月2日に実施された 教育イノベーションイニシアティブにおいて、元マッキンゼー日本支社長、早稲田大学ビジネススクール教授の平野正雄氏が「リーダーを育成する グローバルな人材要件の変化と対応」と題して講演を行った。

 リーダーシップの必要性と定義の変化

リーダー育成、リーダーシップ教育が大事なのか。まず、大きく変化している今日の経済・社会環境においては特に必要になってきている。また、リーダーは一握りのエリートではなく、あらゆる分野、職種、階層において求められている。さらに、リーダーシップは、個人にとっても、よき人生を送るために必要な素質でもある。

リーダーシップには、トップダウンやボトムアップ、カリスマ型・サーバント型などさまざまあるが、実際のリーダーはいろいろなタイプがある。さまざまな本が書店に並んでいるが、あくまで個人の体験であり、日本においては体系的にまとめられていないのではないかと思っている。

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リーダーシップを構成するサブ能力

リーダーシップにはさまざまな構成要素(サブ能力)がある。ここでは10個の要素を上げている。大きくナレッジ・スキル的要素とマインド的要素がある。知識よりも、スキル、マインドの要素が多い。アメリカではリーダーシップ研究が進んでいるが、そこでもスキル、マインドの議論が行われている。

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海外事業責任者の成功・失敗要因の調査においては、成功したというのは10%しかない。失敗要因は、30%は打ち手が見えなかった。これはナレッジ・スキルの問題である。また30%は、人や周囲を動員しきれないという問題、さらに30%が粘り、執着心などのマインドの問題と捉えられる。

リーダーシップをコンピューターに見立てた階層で見ていくと、ハードウェアとOS、アプリの3層に分けられる。アプリを学んでも不十分で、OSのスキルベースを身に着けておく必要がある。今のビジネススクールではスキルを重視している。ハードウェアは、マインドである。アスピレーションは、なぜやりたいのか?という、ある種ナイーブな質問だが、それが明確でないビジネススクールの学生も多い。

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21世紀型リーダーシップに求められること

21世紀型ビジネスリーダーはAuthentic Leadership Modelと言われている。Authenticというのは分かりづらいが、「誠実な」と訳してもいいだろう。これまでは権限でリーダーシップを発揮していたが、これからはオープンインイノベーションなどフラットななかでのリーダーシップが必要になる。階層の上から支持する、管理するといったものでなくなってきている。若者は、フラットでオープンな場所を求めるようになってきている。

Appleのスティーブ・ジョブズはインタビューに答えて「いくつのコミッティがあると思う? ひとつもないんだ」と言っていた。ひとりひとりが問題意識を持って活動しているのがAppleの強さだという。カリスマ的なリーダーシップを発揮しているのではないかという問いに対しては、「自分もいいアイデアを出せなければ、誰も言うことを聞いてくれないだろう」と語った。圧倒的にフラットなのだ。

企業の社会的影響が大きくなり、倫理的経営が強く求められている。環境問題や人口問題など、社会問題解決を目指すESG経営が進んでいる。そこでは多様な価値観の人材を受け入れて、共同して新しい価値をうむような動機づけが重要になった。

KnowingからDoing、Beingへ

アメリカのビジネススクールは挫折を経験した。それはリーマンショックである。ウォールストリートおよびMBA学生に対する批判が起こった。ビジネススクールも真摯に対応しカリキュラムを見直した。そのキーワードが、Knowing、Doing、Beingである。ビジネススクールは従来、Knowingにあたる知識を教えてきた。しかしそれでは不十分だという問題意識の中で、Doing、Beingを重視するようになった。

Doingは現場に行く、実態を知るということである。トランプ大統領は、「Unknown People」といって、現場で忘れ去られた人たちの支持を得て当選した。実地研修やインターンシップを増やした。

Beingはマインドであり、それに取り組むことも重要である。ハーバード・ビジネス・スクールなどのトップビジネススクールでは、ビジネスエリートの育成ではなく、リーダー育成を強く意識している。ウォールストリートに行くよりも、NPOや自治体、政府に行く人も増えている。リーダーを輩出することで社会を変えていこうとしている。

日本は、大企業のトップにいってもフォロワーが多い。日本は、リーダーの総量が少ない。

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リーダーシップを育む3つのエクササイズ

  •  ポジション・テーキング

自分の立場を明確にすることであり、これがリーダーの第一歩になる。そして、なぜその立場をとるのか、説明できなければならない。これにより、論理思考が高められる。

  • フレームワーク・シンキング

2時間でも学べば劇的に思考の生産性が高まる。早稲田大学ビジネススクールの学生にも、これを教えるだけで経営分析ができるようになる。

  • マインドフルネス

自分の状況に自覚的になる習慣である。専門家ではないが、多くの本が出ている。

いずれも習慣であり、習慣化することが重要。

 

見てきたように、教育のおいて、ナレッジとスキル、マインドのバランスをとることが重要であり、ビジネススクールもそのことに気づいた。リーダー育成のためにも重要である。

文責:小山龍介