JAのビジネスモデルが岐路に立たされている。本質的には、過去には合理性のあった制度が、制度疲労を起こしていることに起因している。どのような制度改革を行っていけばよいのか、今後の日本の農業のありたかを考える上で、もっとも大きな課題の一つだと言える。
奨励金依存のビジネスモデル
この記事にあるように、JAは奨励金(農林中央金庫への預金に対する利息)によって維持されてきた。
高度成長期以降の農協は、准組合員と貯金量を増やし、貯貸率は落として県信連への貯預率(貯金に対する預け金の割合)を高め(最近では75.4%)、そこからの奨励金収入で経済事業・営農指導事業等の赤字を補てんしてきた。
(中略)
2015年度の経常利益=100とすれば、信用事業97、共済事業56、農業事業▲6、生活事業▲6、営農指導事業▲40
このいびつな構造にメスを入れようとするのが、政府の農協改革である。政府は、高収益を上げてきた信用事業と営農経済事業を切り離そうとしている。そのシナリオがこちら。総合JAとして維持するためには、公認会計士監査、准組合事業利用規制、利益低下という3つのハードルを超えなければならない。
信用事業譲渡、代理店化
「信用事業譲渡、代理店化」とは、農協の信用事業を農林中金や信連に譲渡し、その代理店となるということだ。そうなると、信用事業での収益は大幅に減少することになる。政府は、農協の本来の存在意義である営農経済事業に集中するようにいうが、現状では、信用事業の収益が減少しては、営農経済事業はままならない。総合JAとして維持できるよう、取り組んでいる。
広告会社では、媒体の手数料収益をもとに、テレビCMなどの制作については赤字で行っていたことを思い出す。この場合、優れた制作物を提供することによって媒体の取扱が決まるなどの仕組みだったので、広告会社のなかでの経済合理性があった。しかし、JAにおいては、営農経済事業が呼び水になって収益の高い信用事業が成り立っているわけではなく、営農経済事業がなくとも信用事業単体で成り立っている。
准組合員事業利用規制
准組合員事業利用規制というのは、組合員ではない准組合員に対して、利用の規制を行っていくということだ。金融サービスの利用者の多くは准組合員であり組合員ではない、なので利用規制すべきだという政府判断である。それに対し、JA側からの反論もなされている。准組合委員に議決権をもたせて立場を高めるなどの対策は、こうした背景から出てきている。
「准組合員に関する制度的論点と課題」
https://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n1712re1.pdf
預金金利の引き下げ
しかし、そこにもうひとつ大きなインパクトのある出来事が起こった。それが奨励金(農林中央金庫への預金に対する利息)の金利を引き下げである。こうなると、総合JAの体制を維持できたとしても、奨励金収入は減少する。
つまり、政府の改革を受け入れる、受け入れないにかかわらず、営農経済事業単体で黒字化する方向を見出さなければならないということだ。先の記事では、単協単独では難しく、広域合併や1県1JA化が欠かせないだろうという。
JAの枠組みの外からのイノベーション
この件については、JAもしくはJA関係者からの情報発信が多く、JA外からの提言は少ないように見える。JAという組織からすれば、当然、組織の維持存続が大きな目的となるのは、いたしかたないところだろう。しかし、(部外者から無責任に言わせてもらうと)イノベーションがおこるとしたら、おそらくJA内からではないように感じる。 一度、ゼロベースから農業を考え直すには、JAの事業はあまりに大きく、しがらみが大きすぎる。
これはJAに限らない。事業が大きくなればなるほど、自己否定するようなイノベーションは企業でもおこりにくい。JAが生き残るためには、逆説的ではあるが、JAを破壊するようなベンチャーをJAが積極的に支援することが重要ではないか(素人意見)。